学部後期ゼミナール(3年)

【一橋大学経済学部・2003年度・通年】

【時間】 木曜・4限(14:40−16:10) 【教室】 第2講義棟・217番指導室 【単位】 4単位

【担当】 経済学部・教授 岩本 康志


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ゼミの予定(2004年1月14日)

4年生の卒業論文報告会は,第1部が1月15日(木)4限・5限・東1305教室,第2部が1月19日(月)4限・5限東1306教室西本館35番教室でおこなわれます。3 年生も参加してください。
冬学期のゼミは10月2日(木)より開始します。教科書の第17章以下(20,21章をとばす)を1回1章のペースで順番に読んでいきます。
(1月19日・訂正)

参考・選考の情報(2003年4月17日)

10日午前のゼミ選考で,第1志望の3名が合格となりました。
10日午後の追加募集に1名の応募があり,合格になりました。
14日午前の追加募集で2名の応募がありましたが,履修科目要件を満たしていないため,残念ながら受け入れできませんでした。
副ゼミの応募者はありませんでした。

後期ゼミナール紹介・原稿(2002年11月20日)

1 指導教官の専門分野
 財政,社会保障

2 ゼミナールの概要及び指導方法
 3年生では,財政学の基本を学びます。財政学では,市場が失敗したときに政府に何ができるのか,実際に政府はどのような経済活動をおこなっているのかを 学びます。
 ゼミでは,テキストの内容と練習問題に関する質疑応答をおこない,同時に全員で討論をおこないます。質問はランダムに全員に割り当てますので,毎回しっ かりと予習して,積極的に議論に参加することが要求されます。
 また,教養教育の観点からは,将来どのような進路をとっても重要となる3つの能力を向上させることを目的とします。
(1) 論理的な思考をし,それを適切に表現する能力。積極的な参加が要求されるゼミは,コミュニケーションを円滑におこなう技術を磨くのに適していま す。
(2) 英文資料の処理能力。経済のグローバル化が進展した現在では,英文資料を敬遠して仕事をこなすことはできません。英語のテキストに集中的・継続的 に取り組むことで英語への抵抗感をなくします。
(3) 問題解決能力。ゼミで取り上げる経済政策の背景には大きな経済問題があり,それを政府がどのように解決しているのか,別の望ましい手段は存在しな いのかを考えることを通して,日常生活での問題解決に応用できる基礎能力を磨きます。
4年生は卒業論文を作成しますが,財政,社会保障,経済政策の分野で実際のデータを用いた実証分析に取り組むことを希望します。その過程で,(1)主体性 をもって1つのプロジェクトを管理し,実行する能力,(2)自らの力で新しいアイデアを展開し,文章にまとめる能力,(3)数量データを処理する能力,を 修得することを目指します。

3 使用するテキスト及び入手方法
Joseph E. Stiglitz, Economics of the Public Sector, 3rd Edition, W.W.Norton, 2000.

4 選考の方法
 面接により選考します。志望動機,自己紹介,将来の進路希望等について,1000字以内にまとめたレポートを提出してください。
 参加者全員が毎回,積極的に議論に参加するように,参加者は8名以内とする予定です。
 ゼミの議論を円滑に進めるために,一定の基礎知識を共有していることを前提とします。ゼミ参加までに「経済学入門」,「統計学入門」,「基礎ミクロ経済 学」,「基礎マクロ経済学」,「微分積分T・U」,「線型代数T・U」をすでに履修していること,ゼミ参加後は3年生の終わりまでに「財政学」,「基礎計 量経済学」,「確率・統計」,社会保障を勉強したい者はさらに「労働経済学」を履修することを条件とします。

5 ゼミナール の選択の参考になるような主要な著書・論文
 私の ホームページ を参考にしてください。


補足説明

成績表について(2002年12月3日)

 2002年度は,成績表の提出を求めませんでした。ひとつには,筆記試験の成績とゼミでの活躍はかならずしも完全相関ではないので,ゼミテンの成績を知 ることで,変な先入観が入ることを避けたいという思いがありました。ただし,選考では1,2年生での実績を重視するという方針(下を参照)とは矛盾する面 もありますので,応募者が定員を超えた場合に限り,成績を参考にすることにしました。ただし,面接での評価を重視しますので,成績順に合格にするという意 味ではありません。
 したがって,応募者は面接の際にとりあえず成績表を持参してください。演習参加願に成績表を添付する必要はありません(レポートは添付す る必要があります)。ゼミ定員内での選考であれば,私は成績表を見ません。
 ただし,履修科目要件は満たしている必要があります。履修科目要件については皆さんの自己申告を信頼しますので,成績書で確認することはせず,面接時に 口頭で確認をします。
 しかし,あとで申告が虚偽であったことが判明した場合には,どのような事情があれ,ゼミの採点は「不可」としますので,絶対に虚偽の申告はしないでくだ さい。他人から信頼される人間であることは,社会に出てから大変に重要な要素になります。ゼミの不可は卒業がかかってくる致命的な問題になりますが,信頼 関係とはそれに匹敵する大事なことであると認識してください。
 余談ですが,一橋大学ではGPAの導入が計画されているようですが,私は基本的に賛成です。GPAの最大の利点は,「不可」が成績に影響することにな り,学生が真剣に受講しなければならなくなることだと思います。ただし,教師側には,学生の真剣さに応えるように真剣に授業をしなければならない,科目間 での採点基準がばらつかないよう連携しなければならない,など教育へのより一層の配慮が求められ,大変なことは事実です。

ゼミの基本方針(2002年12月3日)

 新3年生の皆さんにとって,ゼミナールの選択は非常に大きな悩みであり,不安になることもあると思います。そこで私の方でゼミの選考方針・運営方 針につ いての情報を開示します。

1.選考方針

 教官側から見てもっとも理想的な選考は,教官がゼミに参加してほしいと思う学生が定員内で応募してくれる状態です。私は学部生を対象とした原稿をほとん ど書いてこなかったので,学部生にはあまり知られていないと思いますので,私のゼミが高倍率になるようなことはないものと予想しています。とはいえ,学生 から見た場合,第1志望のゼミに入るには定員以下の応募者数になるのが望ましいはずです。この状態を実現させるには,ゼミが目指すものと選考方針について の情報を学生が事前にもった上で自己選択を働かせてもらうことが助けになります。
 『後期ゼミナール紹介』にもあるように,私のゼミでは履修科目の前提条件を課していることと,選考時にレポートの提出を求めています。この条件は,この 理想状態に近づけるための工夫として考えられたものです(2002年度は有効に機能しました)。

履修科目要件

 履修科目の要件が他ゼミと比較して非常に詳細で,数が多いことに面食らった学生もいるのではないかと思います。
 私がこのような要件を課したのは以下のような理由からです。ゼミ選考では学生の意欲をたずねますが,学生がそこで示すのは一種の「公約」です。学生の意 欲がその場での取り繕いなのか,本当のものなのかを見抜くことが選考でもっとも重要なことですが,私はその判断材料として「実績」を重視します。つまり, 1,2年生をしっかりと勉強して過ごしてきた学生は,1,2年生で勉強しなかった学生が「これからは一所懸命勉強します」と力強くいうことよりも信用が置 けるという考え方をとります。また,ゼミ選考で1,2年生の実績を見ることがなければ,1,2年生での学習の意義を軽んじることにもつながります。
 履修要件の科目指定は,経済学部生が2年生までに学んでおくべき最低限の水準として想定したものです。授業科目の学び方については,「 大学での経済学の学び方 」を参考にしてください。しっかりと考え,計画的に学習をしている学生にとっては,基本的には無理のない要件のはずです。もし2年生までにこの要件が満た されていない経済学部生には他のゼミを志望していただくことになりますが,そのときには自分が1,2年生でどういう考えで経済学を勉強してきたのか,とい うことを反省してみることをお勧めします。
 数学科目(微分積分T・U,線型代数T・U)も経済学を学ぶための最低限の水準として履修科目要件としています。私のゼミは数理経済学・理論経済学のゼ ミではないので,ゼミで高度な数学を使うということではありません。しかし,数学を使う必要があるときは(履修科目要件とした範囲での)必要な数学は使用 します。数学に拒否反応を示す人は私のゼミ(というよりは経済学)を避けてもらう方が無難ですが,数学が得意である必要はかならずしもありません。私とし ては,数学科目の履修要件を課すことにより無用に倍率が上がることが避けられるのではないかと予測しており,同時に無用に敬遠されることも避けたいと思っ ています。履修科目要件を満たしていて,低倍率のゼミを探している学生にはこの要件は好都合かもしれません(結果はふたを開けてみないとわかりませんの で,保証はいたしかねます)。
 要件となる科目で学ぶべき知識は,ゼミでは既知のものとして扱います。科目は履修していればよく,機械的に成績順で採否を決めることはしません。成績に ついて深刻に悩む必要はありません。
 なお,履修要件を満たしていれば,他学部生の受講を排除することはありません。選考およびゼミでは他学部生も経済学部生とまったく同等に扱います。

レポート

 レポートを課しているゼミとレポートを課していないゼミがあって,あまりゼミに意欲がわかない学生がどちらを選択するだろうかと考えると,レポートを課 すことは避けられない選択でした。また,志望学生を理解し,面接を効率化するためにもレポートは有益だと思います。また,学生にとっても,自分のことを見 つめなおす機会です。
 2000字程度のレポートを課しているゼミが多数派ですが,履修科目要件がすでに厳しいので,有望な学生に敬遠されるのを避けて,1000字と設定しま した。複数のゼミを候補に考えている学生は,まず2000字を課している他のゼミのレポートを作成して,私のゼミに合うところを適当に選択して作成できる ように,分量を半分にしています。レポートも大事ですが,それのみにあまりに多くの労力をつぎ込むことはばからしいと思えるからです。

財政関係ゼミ選択のアドバイス

 今年度は財政関係のゼミが4つ募集されますので, 財政に興味のある学生は選択に迷います。4人の教官の関心分野は専門的なレベルでは違ってきますが,学部教育のレベルではどの教官も財政学の全分野をカ バー可能であり,教官の細かい研究分野の違いは気にする必要はないと思います。ゼミでは教官との相互交流が重要ですので,ホームページや教官の著作を見る などして,教官と波長が合いそうかどうかというヒューマン・ファクターを重視するのがいいのではないかと思います。学生がうまく志望を分散させてくれれ ば,教官側も助かります。

2.運営方針

一橋大学のゼミ必修について

 ゼミに参加することは,学生に相当な覚悟が要求されます。ゼミは教官と学生の相互交通がなければ進みませんので,意欲のない学生がゼミにいると,周囲の 者は消耗してしまいます。教官側から見て大事なことは,意欲のない学生にはゼミに参加してほしくない,ということです。
 普通の大学では,ゼミは成績優秀な学生がさらに熱心に学習する場合に提供されるhonor programであり,大学での学ぶ動機が多様になった大学では,ゼミは選択式となっているのが普通です。一橋大学では学生にこの選択が許されていないこ とを一橋の学生は重く受け止めるべきです。すなわち,すべての学生がhonorを目指すことが要求されていることになり,適当に勉強して合格ラインの成績 を維持し,学業以外の学生生活をエンジョイしようという,現代の学生気質に見られることは一橋大学では本来は許されないことです(なおガリ勉奨励のように 誤解されるかもしれませんのでつけ加えると,熱心に学習して優秀な成績をあげた上で,学業以外の学生生活もエンジョイするのが望ましいということです)。 しかし,そのような学生が一橋大学に皆無であるということも幻想であり,現実に妥協している教官もいるようです。私はそのような妥協をとりません。

卒業論文

 4年生の卒業論文について研究テーマと呼ばれることがありますが,私は学部学生の活動について「研究」ということばを使いません。学部学生が自分は経済 学を「研究」していると考えるのは,経済学を誤解することになるからだと思っているからです。現代の経済学は高度に専門化されており,「研究」(新たな知 識を生産する)には,大学院のコースワークが終わるまでの「勉強」(知識を吸収する)が要求されます。くわしくは,「 大学院での経済学の学び方 」を読んでください。
 したがって,卒業論文は「勉強」の一環です。私は卒業論文を学部4年間の教養教育のなかに位置づけており,おそらく他の教官よりも卒業論文を若干低く位 置づけていると思います。卒業論文は非常に重要なプロジェクトですが,大学4年間のバランスのなかに位置づけることが大事です。普通の枠を飛びぬけて優秀 な学生に対しては,4年生を卒業論文に集中させてなみはずれた卒業論文を書かせるよりは,大学院の科目を受講しながら卒業論文を作成することを勧めます (大学院に進学希望の場合は,大学院科目の履修に重点を置くように指導します)。

大学での教養教育について

 大学での経済学は職業教育(職業に必要な知識を直接教える)ではありません。現在の日本は,知識労働者の学歴が大学卒から大学院修了に移行する過渡期に あります。私は,皆さんの半数は最終的には大学院修了の学歴をもち,その多数派は学卒でいったん社会に出た後に大学院に戻ってくるようになると考えていま す。したがって,大学院に進学することを前提にした場合には,大学では教養教育(将来どのような進路に進むにせよ必要となる,自分で正しく考え判断をする 能力を身につける)を受けることが望ましいと考えます。
 教養教育としての経済学では,経済学の知識を詰め込むこと自体に価値を求めるのではなく,経済学を学ぶ過程において,論理的思考能力を磨くことを重視し ます。私は,大学4年間で以下のような能力を段階的に修得していくことを教育の目安としています(これはHansenの基準を私なりに若干改変したもので す。W. Lee Hansen (1986), “What Knowledge Is Most Worth Knowing for Economics Majors?” American Economic Review Papers and Proceedings, Vol. 76, No. 2, pp. 149-152)。

(1) 既存の知識にアクセスする能力(必要な文献やデータの所在を調べる)
(2.a) 既存の知識の要点を示す能力(経済,経済学の基本的知識を簡単な要約として示す)
(2.b) 既存の知識を展開する能力(文献等の内容を深く理解して,説明する)
(3) 既存の知識を使い,問題を考える能力(経済問題についての小論文を書く)
(4) 新しい知識の生産(新しい内容を含んだまとまった長さの論文を書く)

 (1)は勉強の基本となる方法論であり,大学入学後すぐに修得するべきものです。(2.a)は主として1,2年生で修得するもので,選択・短答問 題の筆記試験で確認します。(2.b)以降は主として2年生以降の修得課題となります。3年ゼミでは主として(2.b)と(3)の修得を目指し,4年ゼミ では(3)と(4)の修得を目指します。

本ゼミ以外の活動

 本ゼミについては,上にのべた運営方針と『後期ゼミナール紹介』原稿にそって,私が主導権をもって進めます。私が指示をしなくても学生の自発的な議論に よってゼミが進められる段階までたどりつければ理想ですが,この境地に達するには学生は相当に成長しなければいけません。
 本ゼミ以外の活動(サブゼミ,ゼミ旅行,各種スポーツ大会等)については,学生が自主的に活発に取り組むことを期待します。私の方からあれこれ指図をす ることはしない方針です。
 しかし,あえてひとつだけ助言をすると,もしミクロ経済学の理解度に不安がある場合には,サブゼミでミクロ経済学の復習をすること(教科書としては,例 えばVarian, Intermediate Microeconomicsが考えられる)は非常に有効です。ミクロ経済学はすべての応用経済学の基礎を支えており,公共経済学ではとくに重要です。

学生への接し方

 私は教育よりも研究に多くの時間を割いています。したがって無制限に学生の皆さんとお付き合いする余裕はないことはあらかじめご了承ください。教育への 時間配分はbest teacher awardを目指して最小の時間を投入する,という方針を昨年に立てたのですが,どうも一橋大学の教官はおしなべて教育下手なのか,best teacher award自体がないようですね。
 
(注意) ゼミの運営は教官だけでできるものではなく,参加する学生に大きな影響を受けますので,上記の運営方針はゼミの進行過程 で,実際の状況に合わせ変更されることがあります。