研究成果 - 論文 -

高齢者の死亡前1年間の医療費と介護費の構造に関する実証分析

ノンテクニカルサマリー

 終末期を迎えた個人には、集中的に医療・介護サービスが投入されるため、それに応じて多額の医療費と介護費が発生する。2005年に発表された厚生労働省の推計よれば、我が国の2002年度における終末期医療費は9000億円に上ると試算されており、医療費適正化の観点から、介護との連携や在宅医療の推進などとともに、高額医療の見直しが検討されている。しかしながら、国内外における近年のいくつかの先行研究が示すように、死亡時年齢の上昇に伴い、終末期医療費は減少するが、逆に介護費は増加していくことが報告されている。これらの分析結果は、終末期のケアのあり方をめぐる議論には、医療だけではなく介護にも焦点を当てるべきであることを示唆している。

 本分析では、2003年4月から2009年10月における福井県下全17 市町の国民健康保険と介護保険のレセプトデータを用いて、終末期における個人レベルの医療費と介護費の特性を明らかにして、死亡前1年間における医療と介護の連携の現状を確認している。

 主な結果は以下の通りである。

  1. 加齢とともに、医療費は低下するが、介護費は増加する。
  2. 要介護度が重くなるにつれて、医療費は低下するが、介護費は増加する。
  3. 入院・入所期間が長いほど、医療費・介護費はそれぞれ高い。
  4. 死亡月に向かうに従って、医療費は増加し続けるが、介護費は増加の後、最後は減少する。
  5. 医療費と介護費に関する計量経済モデルを推定して得られたそれぞれの残差の相関係数はすべて正に有意に推定されたが、その値は高いものではなかったため、医療と介護が強く連携していることを示唆する結果は得られなかった。

論文

「高齢者の死亡前1年間の医療費と介護費の構造に関する実証分析」(PDF file/約340KB)

湯田道生・鈴木亘・両角良子・岩本康志
2011年度 日本応用経済学会春季大会、2011年6月25日-26日