(本稿は,『読売新聞』2007年7月6日朝刊,「論点」に掲載された。)

経済財政諮問会議 将来像議論の司令塔に

岩本 康志

 2007年度予算は過去最大の新規国債発行の削減が図られたものの,財政赤字はまだ巨額にのぼり,財政の健全化はなお最重要の課題である。
しかし,来年度予算編成に向けてまとめられた新しい「骨太の方針」は歳出削減の具体策に踏み込んでいない。経済財政諮問会議が主導的な役割を果たしたようにも見えない。
 このようになった理由として,参院選に配慮して,税制改革等の困難な課題を先送りしたことがよく指摘される。しかし,選挙以外の要因として,昨年に「歳出・歳入一体改革」をまとめたことが重要だ。
 一体改革では,2011年度に基礎的財政収支を黒字化するために,歳出削減の数値目標を立てている。このような中期の財政計画を立案,実行することは,財政が硬直化して機動的な運営ができなくなる欠点をもつが,政府の放漫財政を抑止する利点が大きい。
 諸外国では,こうしたルールの導入で財政規律を確保して,財政再建に成功してきている。一体改革の実現は,毎年の予算編成での首相や諮問会議の主導権をも制約するが,その効能について認識することが必要だ。
 一体改革では,まず歳出削減を行い,目標に足りない部分は増税という枠組みになっている。歳出増加は増税につながるため,歳出増加を求める政治的圧力を抑止する効果がある。
 従来は諮問会議が歳出削減を主導しなければ財政健全化が進まなかったが,一体改革では5年分の歳出削減の数値目標が与党の合意を経て閣議決定されており,その分,諮問会議の肩の荷が軽くなったと言える。
 ただ数値目標を実現する具体的方策がすべて決まっているわけではないので,毎年の予算編成で具体策を決めねばならない。このときの議論は細部にわたるため,諮問会議は予算の大きな方向性を与え,細部は財務省の査定によるという仕切りになっている。
 諮問会議による方向付けが一体改革によって5年分まとめて先決されていると考えると,一体改革期間中の予算編成ではその作業が必要ない。このため,財政健全化での諮問会議の実質上・表面上の役割が低下したが,中期の目標が設定された上での役割分担として一定の合理性を持つ。諮問会議の役割は恒久的に低下したわけではない。一体改革の期間の途中では,経済の実績を反映して,数値を修正する必要が生じる可能性がある。さらに,より遠い将来の財政の方向性を議論する時期が来る。その際には諮問会議はしっかりと司令塔としての役割を担うべきである。
 一方,今回の骨太方針の編成プロセスでは与党との関係で課題を残した。昨年の一体改革をまとめる過程では,歳出削減で政府と与党が協力して,与党が総合調整を自ら行う姿が見られた。個別利益を追求する族議員の圧力をいかに抑えるかという,諮問会議が直面する課題に対する大きな進展だった。
 その流れを継いで,今年度は一体改革の具体策作りに協力することが与党本来の役割のはずだった。しかし,安倍政権が選挙への配慮から重要課題を先送りしたことが,同じ理由からの歳出増加の要求を結果的に呼び起こし,与党の姿勢を逆行させたことは否めない。
 政権の安全運転の姿勢が与党をミスリードしたのであるならば,諮問会議は首相が指導力を発揮すべき需要な政策課題を精選して,首相が主導するスタイルをとるべきだったといえる。


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