(筆者は,会計検査院より,平成12年度決算検査報告「財投機関の決算分析について」の外部評価を依頼された。会計検査院に提出した原稿は会計検査院での内部利用を前提としているが,筆者が独自に公開することは差し支えないとのことで,これを外部公開用に改稿したものが本稿である。)

財政投融資と会計検査院

岩本 康志

2002年9月

 会計検査院は,2001年4月に財政投融資制度が抜本的に改革されたことを契機に,平成12年度決算検査報告において200頁を超える紙数を割いて,「財投機関の決算分析について」(681-891頁。以下,「決算分析」と呼ぶ)と題した分析をおこなっている。これは,財投機関45法人を横断的に取り上げるという従前の検査報告にはない試みをとり,その既往債務の償還の見通しと財政負担の状況を中心に,財投機関の問題点を分析したものである。
 「決算分析」は,詳細で注意深い考察をもとに財投機関の種々の問題点が指摘されており,非常に利用価値の高い資料であると評価できるものの,これまで研究者やメディアによりされてきた批判に比べると,踏み込み不足の感もある。これは,会計検査院の業務範囲では,成果指標(outcome)を所与として有効性・効率性を検証することになり,財投機関の成果指標の妥当性が問われないことに起因する。
 会計検査院の作業が有意義なものとなるには,会計検査院が果たすべき役割のなかで,財投機関の分析に貢献できるものは何かを明確にして,そこに焦点を当てる必要があった。しかし,今回の試みでは,会計検査院がもっとも重要な問題として取り上げるべきものがほとんど等閑視されているという問題がある。
 会計検査院が取り上げるべきであったのは,財投機関の会計表示にかかわる問題である。現在の財投機関の財務諸表は民間企業の財務諸表とは異なる方法で作成しているとともに,個別機関が独特の名称を用いていることで,きわめてわかりにくいものとなっている。しかし,「決算分析」は現行の財投機関の財務諸表を基盤としており,会計表示の問題に対する若干の指摘はあるもの,抜本的な対応をとっているわけではない。
 会計検査院は,現状の財務諸表を所与のものとして受け入れるだけではなく,財投機関がより透明性の高い財務諸表を作成するように,会計基準の設定についても,積極的な関与を果たすべきである。
 現状のわが国の公会計はさまざまな改革すべき問題点を抱えている。また,改革の動きはあるものの,それがきわめて非整合的な形でおこなわれていることも問題である。本来は,広く公的部門に適用されることを想定し,かつ企業会計基準とも整合性のとれた公会計基準が設定されて,国・地方公共団体・特殊法人・独立行政法人に対して,それぞれの事情をくんだ補正を加えた基準が適用されるような状況になることが望ましい。しかしながら,現状では,国では貸借対照表(のみ)を作成する作業が財務省でおこなわれ,貸借対照表,損益計算書,キャッシュフロー計算書,行政コスト計算書等を作成する改革が,地方公共団体については総務省自治財政局で,特殊法人については財務省の財政制度等審議会で,独立行政法人については総務省行政評価局で,と別機関でばらばらに進められている。さらに独立行政法人以外では,現行会計に加えて新しい財務諸表を作成されていることから,新しい財務諸表は現行会計にとってかわるものとはならず,二種類の財務書類を作成するという作業の無駄が生じている。
 さらに,会計書類の作成主体である行政府が会計基準の設定をおこなっており,作成主体とは独立した主体が会計基準を設定すべきであるという,国際的な常識に背く形になっている。わが国の公会計でも,行政府から独立した主体が会計基準の設定をおこなうべきである。現状の組織を見ると,内閣から独立し,会計に密接に関係する会計検査院が,その役割を果たすのに適した位置にいると考えられる。したがって,会計検査院を中心にして,国・地方公共団体・特殊法人・独立行政法人等の政府機関を包括的に対象とする公会計基準を設定する体制が確立される必要がある。
 会計検査院は,現行の会計原則と財務諸表を与えられたものとして,会計検査をおこなうだけではなく,会計原則の検討と公会計基準の設定に,より積極的な役割を果たすことが望まれる。

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